TUBE「空と海があるように」
TUBEの偉大さを示す一つの要素は、楽曲数だろう。天才的なメロディメーカー、コンポーザーである春畑道哉(以下ハル)はTUBEで400曲以上、ソロ活動で約200曲を作り、外部への提供曲も多数ある。
好きな曲や思い出を挙げればキリがないが、一つだけ選ぶなら…私は「空と海があるように」である。
発売は2010年12月8日。04年の「Miracle Game」以来となる冬のシングルだ。作詞は前田亘輝(以下前田さん)、作曲はハル。読売テレビ・日本テレビ系の「情報ライブ ミヤネ屋」エンディングテーマに使用され、番組内でメンバーが演奏したこともある。
毎週月曜夜のラジオ「前田亘輝YOU達HAPPY」を欠かさず聴いている。ウ●コを含む前田さんの下ネタは深夜ならではだが、たまにドン引きすることもある。だが、「誰かに贈りたいTUBEの曲」のコーナーでは、リスナーからの心温まるエピソードを聞けることも少なくない。馴染みの曲でもラジオで改めて聴くと、TUBEの素晴らしい楽曲と前田さんの歌詞の魅力を、新たに発見出来る。
このコーナーに「空と海があるように」をリクエストしたことがある。贈りたいのは祖母。100歳の誕生日に、ふと思いついて番組へメールを送った。良く晴れた秋の朝だった。
生放送ではないため、放送される何日前に収録しているのか分からない。メールを送ってからしばらく、いつ読まれるかとワクワクしながら聴いていた。だが、読まれないことが数回続き、採用されなかったのかと思っていた。
欠かさず聴いていると書いたが、リアルタイムで聴けないこともある。年が明けたある日、帰宅する車の中で「radiko」のタイムフリー機能を使い、ラジオを聴いていた。すると、私が長々と書いたメールを前田さんが読んでいる。前田さんとカッパさんは祖母の100歳を「良かったですね」と祝福してくれた。
有り難いし嬉しいのだが、他のリスナーには関係ない。「空と海があるように」が大好きなファンにとって貴重な証言となったに違いないのは、その後。前田さんが「余談なんだけど」と言いながら、歌詞を書いた経緯を語ってくれたのだ。
18年のシングル「夏が来る!」のカップリング「潮風の中で」は幾多の名曲を作った前田さんとハルにとり、初体験でもあった。所謂、「詩先」。詩を前田さんが先に書き、それをイメージしてハルが曲を作った。
他の曲は全て、ハルが先にメロディを作り、それに合わせて前田さんが歌詞をつけている。「空と海があるように」も、先にあの雄大なメロディがあり、前田さんは後から歌詞を書いている。
話を戻すが、前田さんはラジオで、「空と海があるように」の歌詞を書いた経緯を述べている。前田さんがお世話になった名古屋の会社創業者が70代前半で亡くなる前に、様々な話を前田さんにしてくれたという。「家族って何かとか。色々な話を聞いて、あの曲を書いた訳だ実は」「お前も惚れた晴れたとかじゃなくて、大人の曲を書いてみろ、と言われて書いた曲」「あれはTUBEのああいう曲の初めてのトライだったんじゃないかな」
カッパさんも思い出を語った。「ラジオやる前に会ったときに、前田さんがすごく良い曲が出来たと言っていたのをすっごく覚えています。聴いたらやっぱりすごく好きなタイプの曲で」。
「これが後の、君の大好きな「灯台」に繋がっていく」(前田さん)
「すごく世界観が似ているというか、これはすごく良い曲ですよ」(カッパさん)
「命は繋いでいくものなのか、生き切るものなのかっていう現代のテーマに繋がっていくんじゃないの」(前田さん)
「本当に良い曲、これは」(カッパさん)
ー中略ー
「100歳まで生きるっていうことと、繋ぐということで生き切るという、色々な選択肢がある時代を迎えて、またこの曲がどういう、皆んなに捉えられ方をするのか楽しみだなあ、という気がする」(前田さん)
「このタイミングでかかるという、聴こえ方とか聴き方、感じ方も変わると思うので」(カッパさん)
「じゃあちょっと歌詞に注目して聴いてもらいましょうか。ラジオネーム●さんが、100歳になったおばあちゃんに贈りたい曲。TUBEで、空と海があるように」(前田さん)
人は笑い涙しながら 愛をゆっくり育て
空と海に溶け合うように いつか光に還る
自分よりも大事な人を 想いながら
人は悩み苦しみながら 夢を枕に眠り
巡る時代に振り回される ただの旅人だけど
この胸に守りたいもの 確かにある
時を超え譲れないもの 君にもある
(「空と海があるように」抜粋)
映像化されているライブでは17年の冬のアリーナツアー「TUBE LIVE AROUND 2017 “Unknown 4” 〜冬でもアリ⁉ーナ〜」、13年夏の野外ライブ「TUBE LIVE AROUND SPECIAL 2013 “HANDMADE SUMMER”」で演奏されている。
17年、13年はいずれもアンコール、セットリストでは最後から2番目に披露。曲の後は前田さんのMCがあった。特徴として、TUBEのライブでは珍しく手拍子がなく、ファンが聴き入る点が挙げられる。
17年はバイオリン、ヴィオラ、チェロのストリングス、ピアノやキーボードに加えて、ギター、ベース、ドラムにもサポートミュージシャンがおり、重厚な編成による演奏が観られる。音楽監督・武部聡志のアレンジも効いており、この曲の音楽性の高さを堪能出来る。
一方、13年のスタジアムライブは17年に比べるとシンプルとも言える、通常の野外ライブの編成。前田さんが一人一人に語りかけるように、感情を込めて歌うのが印象的。
17年も13年も中間のギターソロのあと、ベース、ドラムと続けてカメラが抜くパートがあり、見所の一つだ。スピードのある曲ではないが、ハルのアーミングも効果的だ。
因みに、17年は春のホールツアー「TUBE LIVE AROUND 2017 迷所求跡ツアー ~My Home Town~」29公演のうち、6月10,11日の大阪でのみ演奏されたが、13日の出雲市以降、セットリストから姿を消した。大阪公演は観に行ったので幸運だった。unknown4の3公演と合わせて、この年は5回、聴くことが出来た。
ラジオで前田さんが触れたように、「空と海があるように」と、30周年を迎えた15年の冬のシングル「灯台」は繋がっているという。この曲も家族や人生、命を描いている。
「灯台」
人 夢 愛 遥かな旅
振り返れば 家族と歩く航跡(みち)
七色の輝き
それが生きた証し
(「灯台」抜粋)
近年ではクノールのCM曲「SUMMER TIME」「夏が来る!」「いただきSUMMER」はTUBEの「ど真ん中」。爽やかで底抜けに明るく、キャッチー。一瞬で代名詞の「夏」が来る。
「空と海があるように」はそうではない。だが、歌手・前田亘輝、作詞家・前田亘輝の成長と成熟、表現力。多彩な楽曲を作れる作曲家・春畑道哉の才能。そして何よりも、定着している「夏」というイメージのお陰で、ともすれば隠れがちなTUBEの音楽性の高さが感じられる。